献血は、救急医療における輸血用血液として重要な役割を占めている。しかしながら、血液の保存期限の問題や、感染症のリスクなどの問題から、多量に簡便に準備可能な人工血液の開発が求められている。人工血液には大別して、iPS細胞などから血液を作るアプローチと、赤血球を利用することで人工的な酸素運搬体を構成するアプローチに大別される。エディンバラ大学のマーク・ターナー博士らは、皮膚細胞や血液から作成したiPS細胞を効率よく赤血球へ分化させることに成功している。また、新生児のへその緒や成人の骨髄から抽出された幹細胞を誘導することでも人工血液が作製されている。
一方、奈良県立医科大学の酒井宏水教授らは、高濃度のヘモグロビンを脂質二分子膜で被覆することで粒子径250nm(ナノメートル 10億分の1m)程度のヘモグロビン小胞体を構成し、人工赤血球(artificial red cell〈人工酸素運搬体 artificial O2 carrier〉)として利用する手法を開発。中央大学の小松晃之教授らは、血液から抽出したヘモグロビンを血漿中のたんぱく質であるアルブミンで取り囲むことにより、赤血球と同様に酸素を運搬することができる「ヘモグロビン-アルブミンクラスター」による人工酸素運搬体「HemoAct」を開発している。後者は、体内で分解されることなく血中で安定に存在し、乾燥粉末状態で保存できるため、救急や移植臓器保管などの際に、水に溶かして使用することが可能である。また、ヘモグロビンをイヌ由来のたんぱく質で包むことで、ペット用の人工赤血球の開発にも成功しており、ペット医療における輸血用血液としての利用が期待されている。