細胞内では、たんぱく質や酵素などさまざまな分子が存在し、代謝反応が進行している。細胞中に存在する生体高分子の濃度は極めて高く、このような分子状態が非常に混み合った状態を分子クラウディングと呼ぶ。分子状態は、生命活動など細胞の状態によって常に変化するため、細胞内の生体分子の機能は分子クラウディングの状態によって影響を受け、制御されていると考えられる。甲南大学の杉本直己教授らは、PEG(ポリエチレングリコール)や、BSA(牛血清アルブミン)など、異なるクラウディング環境下において、核酸の熱力学的安定性が変化するとともに、構造の違いにより挙動が異なることを報告している。また、ミトコンドリアDNAの複製異常によって引き起こされるミトコンドリア病が、ミトコンドリア内でのクラウディング環境の違いによって生じる可能性があることなどから、疾患と分子クラウディングなどの分子環境との間に関連性が存在することを示唆している。