植物が太陽の光で光合成を行い、異なる波長を受容すること、エチレンを介して情報伝達を行っていることはよく知られている。一方で、音を聞くことができるのではないかという点は古くから指摘されているものの、科学的に証明されていない。イスラエルのテルアビブ大学のダニエル・チャモビッツ教授は、著書『植物はそこまで知っている(What a Plant Knows)』で、植物の知覚について述べているが、近年の研究で、植物が水の音や羽音などを聞き取る聴覚や視覚を有している可能性を示す報告が増えてきている。
聴覚については、アメリカのトレド大学のヘイディ・アペル教授は、ロッククレスというシロイヌナズナ属の植物が、イモムシが葉を食べている音を聞かせると毒素を作り出す量が増加することを報告している。ドイツのグライフスヴァルト大学のマイケル・ゲルハルト・シェーナー博士は、音の振動が機械的受容器を通じて植物に反応を引き起こすことができる可能性を報告し、前述のチャモビッツ教授は同著書の中で、蜂の羽音のある周波数の音が、花粉の放出を促進する可能性について述べている。また、西オーストラリア大学のモニカ・ガリアーノ教授らは、Y字形を逆さまにした二つの分岐をもつ植木鉢にエンドウ豆の苗を植え、分岐の片方に水が流れる音を聞かせた場合に、そちらに根を伸ばすことから、水検知に聴覚を利用している可能性があることを報告している。
視覚については、ドイツのボン大学のフランティシェク・バルーシュカ教授とイタリアのフィレンツェ大学のステファノ・マンキューソ教授は、シネコシスティス属のシアノバクテリアがまるで動物の眼のようにレンズとして働き、細胞膜に像を投影する眼点細胞のように作用していることを報告した。シロイヌナズナ属の植物が眼点の発達に必要なたんぱく質を作っていることも報告されており、高等植物には眼に似た構造があり、木の葉が赤く色づくのに必要なプラストグロビュールという構造が眼点のように作用している可能性があることが示されつつあるが、その機能については、まだ明らかではない。チリ原産の「Boquila trifoliolata」というアケビ科のつる性植物では、葉の色と形を巻きつく相手の植物、つまり宿主植物の葉に似せて変えることができることも植物が視覚を備えている可能性を示唆するものである。