5500万年前に地球の気候が突然温暖化し、地表気温が5~10℃上昇した。これまで古第三紀末の突発的温暖化事件(LPTM ; Late Paleocene Thermal Maximum)とされてきたが、始新世初期に活動時期が改められた。この事件にともなって海底堆積物中の炭酸塩鉱物の炭素同位体比が大きく負の値へシフトしており、海底のガスハイドレートが融け出して、大気中に大量のメタンが放出されたと考えられてきた。最近になって、ノルウェー海の海底地殻の構造が反射法地震探査で調査された結果、大規模な玄武岩の活動によって堆積物中に存在したガスハイドレートが融け出したことを示す地質構造が多数確認された。ガスハイドレート層を融解させた火成活動は、5500万年前の大規模な洪水玄武岩の活動の一部で、北大西洋の海洋底拡大過程に関連したものである。洪水玄武岩の活動やガスハイドレートの融解、地球温暖化事件の関連性を実証した研究として注目される。