動物の年齢と体の大きさの関係を成長曲線という。樹木の年輪と同じように、動物の骨格にも1年ごとの成長の歴史が刻まれていることがある。フロリダ大学のG.M.エリクソンらの研究グループは、骨の組織や成長縞を手がかりに恐竜の成長様式の研究に取り組んでいる。彼らはティラノサウルス科に属する複数の恐竜の成長様式を解析し、T.レックスだけがどうして巨大化したのかを明らかにした。彼らは、T.レックスを含むティラノサウルス科に属する4種類について、複数の完全個体から骨試料を取り出し、顕微鏡観察によって成長縞を解析して、それぞれの死亡年齢を割り出した。また、骨格サイズと体重の関係を表す相似則を用いて体重を計算し、年齢と体重の関係をグラフ化した。ティラノサウルス科の恐竜の成長様式は従来の研究で明らかにされているように、いずれもS字型の成長曲線で表される。幼齢期にはどの種も似たような成長を示すが、体型が巨大化したT.レックスだけが年齢が15歳を過ぎたころから急激に成長して体重が5000kgにまで達しているが、残りの種については急激な成長期がなく成長をとげた個体の体重はせいぜい1000~2000kgにしかならない。このことは、T.レックスにみる恐竜の巨大化は、加速的成長期が重要な役割を果たしたことを示唆している。また、T.レックスの寿命は28歳で、加速的成長期における成長速度は一日当たり2.1kgであると見積もられた。体型が大型化した他の恐竜の分類群についても、急激な成長期が認められるのか、そして一日当たりの成長速度の最大値がどれくらいかを見積もることは今後の興味深い課題である。