地球のまわりをまわる月がどのようにして形成されたのかに関する学説。地球から飛び出したとする分裂説、太陽系の別の場所からたまたまやってきて地球の重力圏に捕獲されたとする捕獲説、地球と同様に微惑星衝突でできたとする集積説があった。1980年代から、火星程度の大きさの微惑星が原始地球に衝突し、飛び散った物質から月が形成されたというジャイアントインパクト説が注目されている。最近、寿命の短い消滅核種であるハフニウム182とそれが壊変してできる安定なタングステン182を用いた同位体地球化学の手法が隕石や惑星物質に応用され、ジャイアントインパクトの起こった時期が、太陽系の形成から3000万~1億年後という太陽系形成過程の末期のできごとであることが明らかにされた。鉄隕石や火星起源の隕石の研究によると、原始惑星における金属核とマントルの分化は、太陽系の形成から1000万年ぐらいまでの間に起こったと推定されている。ハフニウム‐タングステン同位体比による月や地球内部の分化の時期がこれらの年代と大きくずれていることは、ハフニウムとタングステンの同位体比の分別が初期の核とマントルの分化によるものではなく、ジャイアントインパクトによることを示している。