誕生して間もないころの地球大気には酸素がほとんどふくまれていなかった。現在は酸素が1気圧の大気のうちの約20%を占めている。この酸素は光合成生物が行う光合成反応によって、徐々に大気や海水中に蓄積されてきたものである。酸素の歴史は、初期の酸素の乏しい状態から現在にいたる大気中の酸素濃度の変遷を指す。光合成生物の出現の証拠にはストロマトライト、酸素発生による地球環境の変化の証拠としては縞状鉄鉱床であるとみなされ、大気中の酸素分圧は23億~20億年前ごろに急激に高まったことが示唆されていた。この考えは、最近硫黄同位体比の研究から裏づけられた。さらに、6億年前ごろにも酸素濃度の急激な増加があり、それが多細胞生物の出現を促したという見解があった。最近になって、クロム同位体比の分析が行われるようになり、クロム同位体比の増加が6億年前ごろにみられ、これが酸素の増加と関係している可能性が指摘された。陸上岩石の風化はマンガン酸化物によって触媒され、その反応でクロム同位体比が分別を受ける。陸上から運ばれたクロムは海洋で還元されて固体沈殿物となって堆積岩にとりこまれたが、陸上風化の際のマンガン酸化物の触媒作用が6億年前から現在の期間にはみられ、それ以前にはみられなかったという。こうした地球化学指標によって、大気中の酸素濃度の復元が進められており、酸素の歴史と生物進化の関連性の解明が進んでいる。