山地に降った雪が夏になってもとけず、万年雪となって、谷状地形を流れ下っている巨大な氷の塊。ヨーロッパアルプスやカナダのロッキー山脈などでは、巨大な河川のように、何十キロメートルもの長さになるものもある。氷河は自重によって斜面を下り、その速さは1年に10メートルに達する。流れの速いところでは、氷河の伸張変形でクレバスが無数にできる。氷河の底面では氷が融解し、地面との摩擦を小さくして流れやすくしている。まれに巨大な氷が一塊になってすべることがあり、氷河性地震を発生させる。氷河は流れ下るときに岩盤を深く削り、カール(圏谷)やU字谷のような地形を形成する。また、斜面からすべり落ちた土砂が氷を覆うこともあり、土砂を運搬する作用もある。運ばれた土砂は、氷河の側面や末端部に蓄積される。こうした土砂は巨大な礫(れき)や砂、粘土が混ざったものであり、その地形はモレーンと呼ばれている。氷河の先端部には、融雪水がたまった氷河湖ができることもある。氷河時代末期には、大規模な氷河湖が形成され、一気に決壊して大洪水が発生した。地質時代の氷河作用は、氷河が運んだ土砂が緻密(ちみつ)な岩石になった堆積岩である氷河堆積物、氷縞粘土、あるいは氷河が岩盤を削ったひっかき傷である削痕などで認定される。地質時代の氷河作用は、原生代初期(24億年前ごろ)、7~6億年前ごろ、古生代末期に広く認められる。原生代の氷河作用では、地球表面が全面的に凍結したとする学説が注目されており、スノーボール・アース仮説と呼ばれている。日本でも最終氷期に氷河が発達されたと考えられており、立山の山崎カール、木曽駒ケ岳の千畳敷カールは氷河地形とされてきた。これまで日本には氷河はみられないとされてきたが、2012年4月に日本雪氷学会は、北アルプスにある3つの万年雪を氷河であると認定した。氷河と万年雪の違いは、氷体が自重で流れ下っているかどうかである。