1969年2月8日の朝、メキシコのチワワ州アエンデ村の広い範囲に落下した隕石。大気中で分裂し、雨のように大量の隕石が降り注いだ。その総重量は5トンを上回ると推定されている。この隕石はCV3炭素質コンドライトに分類された。ちょうどアポロ計画の直前で、月の岩石の研究のための研究施設が整備されたばかりであり、大量に回収された隕石は詳細に研究された。とりわけ、カルシウム・アルミニウム包有物(Calcium-Aluminium Inclusion ; CAI)と呼ばれる粒子を多く含むことで注目された。CAIのなかには、ヒボナイ、メリライト、イルメナイトなどの高温下での気相から凝縮する鉱物からなるものもあり、原始太陽系星雲で最初に凝縮してできた固体微粒子が含まれていた。すなわち、CAIは、太陽系で最初にできた固体微粒子であるとみなされた。実際、それらのウラン‐鉛年代測定では、46億6600万年前という最古の年代を示すものが発見されている。CV3炭素質コンドライトは、直径数ミリメートル程度のやや大きなコンドリュール(球状粒子)を多く含むが、それらはCAIの形成から数百万年たって形成されたものである。CAIには、超新星爆発で合成された寿命の短い放射性核種に由来する同位体比異常が認められる。そのひとつが消滅核種である質量数27のアルミニウムの壊変で生じた質量数27のマグネシウムである。アエンデ隕石には、モアッサン石と呼ばれる炭化ケイ素などの新鉱物が発見されている。モアッサン石は、超新星爆発でできた星間ガス中で生成された鉱物であると考えられている。2012年にも、新たな鉱物が発見され、隕石学者のJ.T.ワッソン教授にちなんでワッソナイトと名づけられた。これはアエンデ隕石から発見された8個目の新鉱物である。