地質時代区分における最新の時代で、人間活動の影響が地球環境に影響を与えるようになって以後の時代を指す。まだ公式に認定された時代区分ではないが、ロンドン地質学会などで議論が始まっているほか、2011年のアメリカ地質学会の年会のタイトルにこの言葉が使われたように、一部の地質学者の間で積極的に用いられている。しかし、人新世の始まりをいつにするのかなど、合意は得られていない。大気組成に人間活動の影響が現れるようになったのは産業革命以後であり、19世紀半ば以降とする意見が出される一方、人類が石器を使うようになった新石器時代以降とする提案や、農耕や牧畜を行うようになって、地球の生態系が変化し始めた時期とする意見もある。2015年3月12日号の「ネイチャー」誌に掲載されたS.L.ルイスとM.A.マスリンの論文で、人新世の始まりに関する定義が議論されている。人類による全球的な環境変化が起こった時代を指すが、地質記録に残る人為的影響をもってこの時代を定義するという考えに立ち、1610年と1964年が候補とされた。1492年のコロンブスの新大陸の発見のあと、旧世界と新世界での物質的な流通が活発になったことが世界の均質化をもたらし、こうした人間活動による植生の変化が、地層に残る花粉化石で読み取れることが理由とされた。その始まりの年については、南極のロウ・ドーム氷床コア中の二酸化炭素濃度の変化曲線が最小値をとる1610年が選ばれた。一方、1964年は、核実験によって生じた放射性炭素14の存在度のピークに基づいて提案された。