化学合成生態系の生物群集を支えると考えられる微生物の研究は熱水噴出孔生物群集が発見されてから始まった。熱水孔の周辺では高温の環境を好む細菌(好温菌)が見つかっている。また、海底は10m潜るごとに1気圧(0.1Mpa)圧力が上がる。水深6500mの海水中では680気圧で、これは1cm2の部分に680kgの重さがかかることに相当するが、このような高い圧力の環境を好む、あるいは耐える微生物の存在が明らかになっている(好圧菌)。このような微生物は少しずつ環境に適応してきたことが実験的に確かめられている。ほかにも低温を好む好冷菌や塩分を好む好塩菌などの微生物が知られている。また、これらの微生物の研究は生命の起源を探る研究にも発展した。生命は太古の波打ち際の泥の中で太陽の光を浴びながら生まれた、というのが定説であったが、1980年ごろに「生命の起源は海底の熱水噴出孔の付近であった可能性がある」という学説が生まれるようになった。現在では、熱水孔付近の海底下数百mあるいはそれより深い場所ではなかったか、という説も唱えられている。