アメリカのトーマス・クーンが、著書「科学革命の構造」(原著、1962年)で提案した考え。科学研究は、通常は個人単独ではなく、研究者の集団的な協同で行われる。これを科学(者)共同体(または科学者集団)と呼ぶ。ある時代のある専門的な科学者共同体は、観察、設問、回答のための規範的な概念枠組み、すなわちパラダイムを共有している。科学者は先行するパラダイムに従って問題を立て、解決することでそのパラダイムを強化する。これを「通常科学」と称する。パラダイムが研究課題(パズル)を生み出し続ける限り、パラダイムは批判を免れる。しかし、課題の生産に失敗を重ねると、「危機の科学」となり、新たなパラダイムに取って代わられる。これをクーンは科学革命と呼ぶ。その前後では、科学上の基本的な概念すら根本的な変化を被っているので、科学革命前後の二つのパラダイムの優劣はつけられないとされた。これが、理論の通約(共約)不可能性と呼ばれるものである。パラダイムという用語はまた、一般的な思考の概念枠組みという意味で拡大解釈され、他の学問分野で粗雑な形で使われるようになった。ついには、一時的に共有される信念としては「科学と宗教のどちらもが単なるパラダイムに過ぎない」などという相対主義的な主張に利用された。90年代半ば、科学者たちが批判を開始し、いわゆるサイエンス・ウォーズが勃発した。パラダイム論の極端な解釈に対しては、アクターネットワーク理論や交易圏の理論などの立場から、科学論内部でも見直しがある。