科学技術の内部の倫理を取り扱うものとして20世紀の末から急速に展開している分野。その発展の背景には、技術者教育の国際的同質性確保を目的とするワシントンアコード(1989年締結、日本は2005年に正式加盟)、技術者資格の標準化を目指すAPECエンジニア(1995年決議)などの制度の整備がある。これらの要請によって、技術者に対して倫理教育が求められるようになった。先行するアメリカでは、大学等の技術者教育の認証機関ABET(Accreditation Board for Engineering and Technology)が技術者への倫理教育を求めている。99年、ABETに倣って、日本技術者教育認定機構(JABEE Japan Accreditation Board for Engineering Education)が発足。国内諸大学の工学系学部でも、その認定を得るために倫理教育を含めるところが増加した。技術者による内部告発なども、このような倫理教育の課題として社会的に注目を集めている。多くの技術者は企業で働いているため、技術者の倫理は、企業倫理(business ethics)とも緊密な関係にある。なお、技術をめぐる諸問題を個人の倫理だけに還元することには、批判もある。また、技術の社会的存在のあり方自体も問われるべき場合もあろう。技術者の倫理については、プロフェッション(専門的職業)として技術に関する業を確立することと関係づけて論じられることも多い。