統計のパラドックス(pardox of statistics)の一つで、統計の数値の読み方に問題がある例。2000年の学習指導要領改訂のとき、授業時間の削減の論拠の一つが「授業時間数を増やすと成績が下がる」だった。図「理科の平均授業時間数と得点」のグラフは、そのときテレビなどでも使われたものである。
たとえば、当時成績がトップだったシンガポールでは、週当たり2時間~3.5時間の授業を受けている生徒が全体の24%で、そのグループの生徒たちの国際調査の試験の平均点が618点だった。また、週当たり3.5~5時間の授業を受けている生徒は全体の76%で、試験の平均点は603点と、授業時間が増えているにもかかわらず成績は下がっている。国際平均値でも、そういう傾向が見られる。このグラフを示しながら、当時の中央教育審議会の会長で後の文部科学省大臣は「多くの国で、時間数を増やすと成績が下がる。なのに、時間数を増やせと主張する教科がある。これ以上成績を下げてもよいのですか」と発言していた。しかし、授業時間を増やすと本当に成績が下がるものだろうか。
この因果関係は、原因と結果が逆なのである。例に挙げたシンガポールでは、小学校5年生から成績によってクラス分けをしていて、成績が下位のグループには補習授業で多くの時間をかけてゆっくりと進んで理解させようという考え方であるため、成績が下位のグループのほうが授業時間数が多くなっているのだ。この調査の結果からわかることは、多くの国において、できない生徒には補習で授業時間を増やして対応しているということであり、上記の発言をした審議会会長はそれがわかっていない。