常識では、ノイズ(noise)が加わると入力信号は検出されにくくなるはずだが、非線形系ではノイズが応答を強化しうる。これを確率共鳴と呼ぶ。系の非線形性のおかげで、微弱な信号だけでは引き起こせない大きな力学的変動(すなわち系の応答)が適当な強度のノイズの助けを借りて可能になることがその原因である。ノイズが強すぎると入力信号の情報が消されるので、確率共鳴現象には最適のノイズ強度がある。この現象は10万年周期で繰り返される氷河期を説明するためのモデルとして最初に提案された。その場合には、地球の軌道運動に関係した微弱な周期的変動の効果が、環境のゆらぎによって強化されたものと解釈される。確率共鳴は電子回路やレーザーなどで確認されているが、最近では生体内の感覚ニューロンでも見いだされ、その機能的重要性が注目されている。ニューロン(neuron 神経細胞)は一般にしきい値以下の強度の入力に対してはまったく応答しないが、ノイズを同時に印加した場合にはその助けによって入力がしきい値を超えうるため、入力信号の強弱を反映した出力信号の時系列を得ることができる。