ネットワークはシステムの構成単位であるノード(node 結節点)とそれらをつなぐリンク(link)からなる構造として抽象化できる。インターネットや共同体の人間関係、生体内の代謝反応回路や生態系の食物連鎖など、ネットワーク構造は社会や自然のいたるところに見られる。最近、ネットワークの数理的研究において二つの注目すべき理論モデルが提出された。第一は、D.ワッツとS.ストロガッツによるスモールワールド・ネットワークのモデル、第二はA.L.バラバシらによるスケールフリー・ネットワークのモデルである。スモールワールドとは、互いに縁もゆかりもない二人の人間も知人関係をたどれば5~6ステップでつながるほど世界は小さい、という経験事実に由来する。これはノードがランダムにリンクされるランダムネットワーク(random network)モデルがもつ性質であるが、現実では決してランダムでなく、ある人の二人の知人は互いにも知人であるようなクラスター構造(cluster structure)をもっている。スモールワールド性とクラスター性は一見相矛盾するようだが、優に両立しうることをワッツとストロガッツは簡単な数理モデルで示した。一方、現実のネットワークの多くはノードやリンクの増加によって自発的に成長するものであるが、リンクの増え方がランダムでなく「優先的選択」と呼ばれる傾向(すなわちすでに多くのリンクをもっているノードにリンクしやすいという傾向)をもつとき、一つのノードに関係したリンク数kの分布p(k)は逆べき分布となることをバラバシらが示した。逆べき分布は代表的な統計分布であるガウス分布など釣り鐘型の分布とは違って特徴的なスケールをもたない。バラバシらは現実の多くのネットワークがスケールフリーの性質をもつことを示した。このようなネットワークでは巨大な数のリンクをもつ少数のノード(ハブ hub)が非常に重要であり、ダメージに対する耐性や情報の伝播において決定的な役割を果たす。