本来は混沌(こんとん)を意味するが、不規則な決定論的運動を表す学術用語として定着している。多くの自然現象は微分方程式に代表される力学系(dynamical system)で記述され、そこでは初期状態を与えるとその後の道筋は決まるので偶然性の入る余地はない。しかし、解の時間発展はしばしば初期状態に敏感に依存し、将来の予測が困難となる。E.N.ローレンツによれば、わずか3変数でカオスが現れ、自然現象の複雑さが必ずしも多数の要因の絡みから来るものではないことを示唆している。非カオスからカオスへの移行に関するいくつかのシナリオが知られているが、逐次的な周期倍増分岐によるM.ファイゲンバウムのシナリオはその代表的なものであり、ファイゲンバウム定数(Feigenbaum constant δ=4.6692016…)と呼ばれる普遍定数(universal constants)が現れる。カオス運動が状態空間に描く軌道の全体は、奇妙なアトラクター(strange attractor)と呼ばれる。