高分子(polymers)、液晶(liquid crystal)、コロイド(colloid)など柔らかい凝縮物質を総称してソフトマターと呼ぶ。液晶ディスプレー、界面活性剤、高分子を用いた新素材などに見るように日常生活と密接に関連し、またDNAやたんぱく質など生体の構成素材でもある。ソフトマターにおいては相互作用エネルギーとエントロピーとの微妙な競合からミクロとマクロの中間のスケールつまりメゾスケール(meso-scale)でさまざまな構造が形成されるという特徴があり、近年の物性物理学における最も刺激的な分野の一つとなっている。たとえば、高分子物理学は長大な分子の集合体を扱うため、通常の原子・分子の集合体を扱うのとは違った理論的な難しさがある。高分子の濃厚溶液では分子は絡み合って互いに運動を制限しているが、こうした事情を正しく考慮して高分子物質の性質を説明・予測することは容易ではない。だが、豊富な実験や統計力学の進歩とともにこの分野の最近の進展はめざましい。