磁性体 (magnetic substance)の理論モデル。各原子分子が担うミクロな磁石、すなわち磁気双極子(magnetic dipole)を一つのベクトルで表したものをスピンと呼び、相互作用するスピンの集合体がスピン系である。各スピンが正負2方向のみを向くことができるイジング・スピン系 (Ising spin system)、三次元のどの方向も連続的にとりうるハイゼンベルク・スピン系(Heisenberg spin system)、平面内のみを自由に回転できるXYスピン系(XY spin system)などが代表的なモデルである。一対のスピンが互いに方向をそろえるような相互作用を強磁性相互作用(ferromagnetic interaction)、互いに逆方向になろうとする相互作用を反強磁性相互作用(antiferromagnetic interaction)と呼ぶ。前者では、スピンの向きをかく乱させる熱運動が激しい高温状態において、スピンベクトルの向きがばらばらなために互いに打ち消しあってマクロな磁化は現れないが、それぞれの物質に固有なある温度(キュリー温度〈Curie temperature〉)以下では、ある方向にマクロな磁化が現れる。これは磁気相転移 (magnetic phase transition)と呼ばれる相転移現象の一種である。強磁性相互作用と反強磁性相互作用が混在する物質も現実に存在し、その場合には低温でスピンの方向がランダムに凍結したスピングラス (spin glass)と呼ばれる状態が現れる。スピン系は磁性体のモデルとしてだけでなく、近年では情報科学の分野で広く用いられている。エラーが不可避な通信における情報の復元、神経回路網 (neural net)における連想記憶、各種最適化問題の解決などがスピン系の代表的な応用例である。