1957年およびその後数年間に、B.J.アルダーとT.E.ウェインライトは現在から見れば格段に貧弱な計算機を用いたシミュレーションによって画期的な論文をいくつか公表した。それは箱の中で弾性衝突を繰り返しながら運動する剛体球(パチンコ玉のような固い球、ないし硬貨のような円盤でもよい)が結晶構造を作るという事実の発見であった。球の数を一定にして箱のサイズを変化させると、大きな箱では球がまばらに分布するので規則構造は現れず、球はランダムに遍歴する。しかし、箱を小さくしていくと突然規則構造が現れ、球のおのおのはある空間点(格子点)のまわりに局在する。これは液体と結晶の間の転移現象を最も単純なシステムで実現したものと見なされる。液体・気体転移と違って液体・結晶転移にとっては、分子間の引力よりも斥力が決定的に重要であるという重要な物理的事実をこの計算結果は示している。彼等の仕事はまた計算機シミュレーションの可能性と魅力をまざまざと示したものであり、統計物理学をはじめとするその後の物理科学に強い影響を与えることとなった。