パーコレーションは「浸透」を意味する。たとえば、多孔質物質の一方から他方に水がしみ出るかという問題は、ランダムなネットワークにおいて、端から端までひとつながりになったクラスター(cluster)が存在するかという問題に帰着させることができる。これを調べるための数学的なモデルとして、隣接する二つの格子点がある確率p(1より小さい)でつながるようなランダム格子モデルが広く考察されている。pが大きいほどつながりやすく、大きなクラスターができやすくなるのは明らかだが、格子の広がりが十分に大きい極限では、端から端までつながるようなマクロなクラスターは、ある臨界値pc以上で存在し、それ以下では存在しないことが理論的に知られている。これはパーコレーション転移(percolation transition)という相転移の一種である。種々の相転移と同様に、この相転移もいくつかの臨界指数で特徴づけられる。たとえば、pがpcを超えて増大するにつれて、端から端までつながったクラスターが占める領域の割合はどのように変化するか、また、pがpcに下から接近すると、しだいに遠方までつながるようになるが、その距離はどのように増大するかなどを特徴づける臨界指数は、個々の系によらない普遍的な値をもつことが知られている。
以上に述べたパーコレーションでは、つながりに方向性はない。しかし、たとえば疫病の伝染や森林火災のような現象を考えると、ある格子点からそれに近接する格子点へ一方向的につながったりつながらなかったりするモデルのほうが適当である。このような、方向性をもつつながりによって構成されるランダムネットワーク(random network ノード=結節点がランダムにリンクされるネットワーク)における浸透現象を、方向性をもつパーコレーションと呼ぶ。その場合、つながりの確率pが臨界点を超えているか否かは、疫病や森林火災がどこまでも広がるか途中で止まるかを決める上で決定的に重要である。方向性をもつパーコレーションは非平衡相転移現象の一つと見なすことができ、通常のパーコレーションと同様にいくつかの臨界指数で特徴づけられる。最近、液晶対流系を用いた実験で、この種のパーコレーションが理想的な形で実現された。