物質に電圧をかけたときに流れる電流や、温度勾配下に置いたときに流れる熱流を調べることで、物質の電気伝導度(electric conductivity)や熱伝導度(thermal conductivity ; heat conductivity)がわかる。このように、マクロな物質の性質を知るための最も有力な方法の一つは、外部から与えられたさまざまな入力に対して物質が示す応答を調べることである。入力が十分弱い場合には、応答は入力強度に比例するが、そのような応答を線形応答とよぶ。入力が一般に時間的に変動する場合も含め、それに対する線形応答は入力が存在しない場合の物質の熱ゆらぎの性質で決まることが知られている。二つの異なる時間において熱ゆらぎの振幅がどのような相関をもつかを表す量を「ゆらぎの二時間相関関数(time correlation function)」とよぶが、線形応答は入力のタイプに応じた物理量の二時間相関関数で与えられることが、久保亮五をはじめとする日本の統計物理学者によって1950年代に定式化された。これは、熱平衡からのはずれが小さい範囲内において非平衡状態の統計力学が確立したことを意味する。線形応答理論は、その後の物性物理学の発展にとって決定的な役割を果たしている。