中央による制御を控え、システムそれぞれの部分に備わっている自律的な能力に大半をゆだねるような制御法を自律分散制御(decentralized autonomous control)という。人工システムの大規模化と動作の高速化にともない、ある機能中枢がシステム全体を集中的に管理し、制御することはますます困難になりつつある。このことから、このような集中制御(centralized control)方式に代わる新しい方式、すなわち自律分散制御方式が近年注目を集めるようになってきた。自律分散方式によって制御されるシステムが自律分散システムであり、通信、情報処理、ロボット等においてこの方式によるシステムの設計原理が研究され、開発が進められている。
自律分散システムにおいては、システムを構成する各要素が単純なルールに従って自律的に機能し、他の要素と相互作用する。その結果、集中制御では実現困難なシステムの機能が自己組織的に形成される。生物個体におけるさまざまな生命活動や、食物連鎖による生態系のネットワークは自律分散制御によって機能している。自律分散システムの最も注目すべき特徴は、外的撹乱に対する強固性(ロバストネス)、回復力(レジリエンス)の高さである。集中制御システムでは機能中枢が壊滅すれば全体の機能が失われるが、自律分散システムではダメージが一般に局所的なものにとどまるからである。