太陽光による色褪せや植物の光合成反応に見られるように、光を照射することで物質の性質が変化する例は自然界に珍しくない。しかし、光照射が原子や分子の集団に大規模に働きかけ、物質の構造や電気的な性質などマクロな性質を劇的に変えてしまうような現象の発見は比較的新しく、光誘起相転移現象として大きな注目を集めている。光照射はきわめて短い時間幅の強力な光パルスによるが、フェムト秒レーザー(フェムト秒=10-15秒の100倍程度のレーザー光パルス)の開発によって研究は大きく進展しようとしている。一般に、原子分子組成は同一であっても、物質は複数のマクロな安定状態をとりうる。その中で自由エネルギー(free energy)が最低の状態が真の熱平衡状態であり、自由エネルギーが最小ではないが極小となっている状態が準安定状態であり、いずれもマクロな状態として安定の存続をすることができる。それはこれらの状態間に熱運動や通常の刺激では乗り越えることのできないエネルギー障壁が存在するからである。特殊な光照射法により、この壁を乗り越えさせるのが光誘起相転移である。これを通じて新しい機能をもつ物質の開発が期待される。また、いずれも炭素原子のみから成るダイヤモンドとグラファイトという二つの安定状態間を光照射によって遷移させる試みもなされている。