液体中で瞬間ごとに不規則に位置を変えていく一分子の運動のように、ランダムに位置が変化していく確率過程(stochastic processes)をランダムウォークと呼ぶ。ランダムウォークを理論的に扱うための通常のモデルでは、時間を等間隔に刻み、あるステップから次のステップへの変位が確率的にのみ決まり、それに先立つ飛躍における変位とは確率的に独立であると仮定される。ランダムウォークは単に空間位置の変化のみでなく、あらゆるランダムな変動現象に一般化することができる。それは、熱ゆらぎ(thermal fluctuation)による物質の性質の変化のような物理現象から、株価の変動のような社会現象にまで及んでいる。最も単純なランダムウォークのモデルは、硬貨投げのモデルである。硬貨の表と裏をそれぞれ1と0とに対応させれば、繰り返しの硬貨投げに対応して1と0とから成るランダムな時系列が生じ、それは時間的に不規則に増減する一つの曲線で表される。この場合、多数回の試行後における初期状態からの変化量は正規分布(normal distribution ガウス分布〈Gaussian distribution〉ともいう)に従い、試行数の増大にともなってこのつりがね型の分布は拡散法則にしたがって平坦化していく。多くのランダムウォークにおいても同様の長時間振る舞いが実現される。しかし、レヴィフライト(Lvy flight)として知られている確率過程のように、各ステップでの飛躍量が逆べき則(inverse power law)のように長く裾を引いた確率分布であたえられる場合には、長時間挙動は定性的にまったく異なったものになる。