物理現象や自然現象、社会現象においては、しばしば多数の構成要素間に働く強い相互作用が集団の性質や動的挙動にとって決定的な役割を果たす。しかし、19世紀末に数学者J.H.ポアンカレが示したように、相互作用するわずか三つの天体から成るシステムでさえ、理論的に厳密に扱うことは不可能であり(いわゆるポアンカレの三体問題〈three-body problem〉)、ましてや莫大な数の構成要素から成るシステムの解析、すなわち多体問題(many body problem)においては近似理論に頼らざるを得ない。平均場理論はその中で最も基本的な近似理論である。すべての要素が同じ性質をもつケースを考えた場合、個々の要素は他のすべての要素が作る力の場の中にあるとみなすことができるが、平均場理論においては、このような場がどの要素にとっても共通の同一の場であると仮定する。前もってこの場は未知の場Xであるが、その中にある個々の要素の状態如何は一体問題であるから、Xの関数としてこれを容易に知ることができる。しかるに、このような個々の状態の総体がXを決めているわけであるから、結局X自体がXのある関数としてあたえられることになる。この関数関係はXを無矛盾的に決定する関係式であることから、平均場理論を自己無撞着理論(じこむどうちゃくりろん self-consistent theory)とも呼んでいる。この理論は多様な相転移現象を理解するための最も初等的な理論であるとともに、マクロな複雑現象や非線形現象の解明にも広く用いられ、たとえば振動子集団における集団同期(collective synchronization)の発生・消滅を説明するための理論としても用いられている。