複雑系の科学(science of complex systems)における多くの問題では、比較的単純な性質をもつと仮定された構成要素と要素間相互作用にもとづいて集団の挙動を理解しようとするアプローチが採用される。高速道路を走行する車の集団が引き起こす渋滞現象についても、このような立場からの研究が東京大学の西成活裕教授をはじめとする多くの研究者によって進められている。この場合、構成要素は走行速度という自由度のみをもつ個々の車(ないしドライバー)であり、要素間相互作用は前後を走る車による走行速度への影響である。相互作用ルールとして、すぐ前の車との車間距離が小さくなれば速度は落ち、広がれば速度は上がるとするのは自然である。これをある単純なルールとして数式に乗せることで、車の密度(混み具合)がある限度を超えると車の流量が頭打ちになり、次いで減少に転じるという、経験的にも知られた渋滞現象の説明が可能となる。ドライバーによっては車間距離を比較的大きく取ったり接近して走ったりするが、平均として車間距離を広く取る走行が渋滞を避ける上で有効であるという結論もこのような理論から導かれる。