2007年度から文部科学省が始めた「元素戦略プロジェクト」は、資源小国であるわが国が将来、希少金属や希少元素の枯渇に直面するのを防ぐための備えであり、第3期科学技術基本計画の戦略重点科学技術の一つに位置付けられている。元素多様性の発掘を物質創造の戦略、砕いていえば、元素を見いだして新しいものを生む戦略ともいえる。世界的に見ても、このようなコンセプトで大きな動きを示している国はまだなく、わが国が今後もこの分野で世界を先導することが期待される。採択された研究テーマの一例は「亜鉛に替わる溶融Al合金系めっきによる表面処理鋼板の開発」で、次第に希少になっている亜鉛を使わない方法の開発である。08年度に採択された科学技術振興機構(JST)のテーマの一つ「再生可能エネルギーシステムの実現に向けた貴金属フリー・ナノハイブリッド触媒の開発」は、元素戦略の一つの柱であるユビキタス元素戦略、すなわち、これまでは希少元素(金属)を使ってしか実現できなかった機能を、豊富で無害な元素だけを使って実現しようという取り組みの一例である。