活性酸素(active oxygen)は、高い反応性をもつ化学種で、強い酸化力を示す。したがって強い殺菌作用を示す半面、細胞などに障害を与える可能性もあり、プラスとマイナスの両面がある。これに対して、窒素源である空気中の窒素が極めて安定だったから、これまで窒素の活性種の環境への影響はあまり注目されなかった。20世紀前半にハーバー・ボッシュ法(Harber-Bosh process)による窒素固定が実現し、人造肥料の大量生産が可能になり、人類を飢餓から救った。このプラスの効用のため、固定された窒素がさまざまな条件下で極めて反応性に富む活性窒素、例えば麻酔剤にも用いられる亜酸化窒素(N2O 笑気ガス)に化学変化したときに起こりうる問題はどちらかといえば無視されてきた。しかし近年、バイオ燃料、例えば自動車燃料用エタノールの原料となるトウモロコシと、食肉用家畜の飼料の生産のための肥料の使用量の爆発的な増加によって、活性窒素のマイナス面が問題になってきた。窒素固定はほぼ1世紀にわたって行われてきたが、その総量の半分以上が過去20年間に使われた。環境に流入する活性窒素は、自然の発生源(土壌中の窒素固定細菌、雷など)が約9000万t/年であるのに対して、人間の活動(化学肥料など)が発生源であるものはその2倍に達しており、今後活性窒素の問題は深刻さを増してくるのではないかと危惧(きぐ)される。