結晶(crystal)は立方体などの平行六面体の単位胞(ユニットセル unit cell)が周期性をもって隙間なく積み重なったものである。そのため結晶で許される回転対称性は1、2、3、4、6回に限られ、5回の回転対称はないとされてきた。回転対称性(rotational symmetry)とは、どれだけ回転させれば元の形と一致するかを表すもので、例えば正六角形は60°回転させれば元の形と一致し、この手順6回で一周するので6回の回転対称性をもつことになる。1982年、イスラエル工科大学のD.シェヒトマン教授(現・特別教授)は、急冷したAl-Mn合金(アルミニウムとマンガンの合金)が10回あるいは5回対称の回折パターンを示すことを発見した。回折パターンがはっきりしていて規則性があるので、アモルファス(非晶質)ではなく結晶であると思われたが、従来の結晶の定義に合わないものであった。この問題は単位胞のかわりに2種類の基本単位を導入することによって解決された。その定性的な理解に役立ったのが以前ペンローズによって導かれたペンローズパターン(Penrose pattern)である。これは鋭角が72°と36°の2種類の平行四辺形を用いて平面を隙間無く埋め尽くしたもので、二次元ではあるがシェヒトマンが観測したパターンの対称性を表している。「準結晶」の命名はアメリカのプリンストン大学のP.J.スタインハート教授らによるものである。彼らは、準結晶のAl-Mn合金が発見される少し前から、準結晶につながる準周期性構造の理論研究をしていた。また、日本でも純度のよい準結晶が次々に作られ、複雑な構造の解明に寄与し、2011年のシェヒトマン特別教授のノーベル化学賞受賞に貢献した。