チタン(Ti)とニッケル(Ni)、あるいは銅(Cu)とアルミニウム(Al)とマンガン(Mn)などの合金は、力を加えて変形させても、加熱などにより元の形状が回復する。このような合金を形状記憶合金という。回復できる最大の変形ひずみはチタン-ニッケル合金では約11%、銅系形状記憶合金では20%と非常に大きく、しかも大きな変形回復力をもっている。通常の金属も0.1~0.2%のひずみまでなら可逆的に弾性変形(elastic deformation)するが、それ以上の変形では元に戻らなくなる(塑性変形 plastic deformation)。これは金属の結晶面でのすべり(slip)が起きてずれてしまうためである。形状記憶合金は、合金の高温相を冷却(チタン50%+ニッケル50%の合金では約60℃以下)してできたマルテンサイト相(martensitic phase 結晶を形成する原子集団がいっせいに動いて新しい結晶構造をつくったもの)と呼ばれる状態にある。形状記憶合金も弾性変形限界を超えると塑性変形するが、マルテンサイト相は構造に柔軟性があるので、すべりを伴うことなく金属原子間の位置関係が保持されたまま変形する。そのため、加熱すると高温相の形状に戻ることができる。また、形状記憶合金の高温相自体にも超弾性(hyperelasticity)という特性があり、通常の弾性変形(0.1~0.2%のひずみ)を超えて力を加えてゆくとマルテンサイト相が誘起され、ほぼ一定の力で数%も可逆的に変形する。温度の切り替えで往復の動作をとるSMAバネ(SMA spring)は形状記憶合金の特性を生かして作られていて、混合水栓、コーヒーメーカー、自動車の自動変速機などに使用されている。また、眼鏡フレーム、歯列矯正用ワイヤなどの医療材料にも、この合金が生かされている。