一般に生体試料は不透明で、顕微鏡による観察では試料のごく表面しか観察できない。輪切りにした試料から得られる像をつなぎ合わせて全体像を得ることはできるが、神経のように長く太い試料、あるいは脳組織に対しては、この方法は適切とはいえない。試料の透明化は神経などの周りの脂質を除くことで実現でき、これまでに多くの試みが報告されてきた。スタンフォード大学のK.ダイセロス教授によるCLARITY(Clear, Lipid-exchanged, Anatomically Rigid, Imaging/immunostaining compatible, Tissue hYdrogel)はその一例で、試料をアクリルアミドに浸して脂質などを除きやすくするのが基本である。我が国でも、理化学研究所の宮脇淳史チームリーダーらが尿素を元にしたScale(“l”は斜体で表記)という試薬を報告しているが、これは透明化に3週間かかり、かつ試料が1.5倍に膨張するという難点があった。同研究所の今井猛チームリーダーらが新たに報告したフルクトース(果糖)を用いた透明化試薬はそのような問題がなく、さらに他の試薬と違い、試料の硬化、脆弱(ぜいじゃく)化なども起こらないという。SeeDB(シーディービー See Deep Barain)と名付けられたこの試薬は商品化も期待される。