あらゆる接着剤が苦手とするのは水であり、接着剤を塗布する前に、接着面をよく乾かすことが必ず求められる。これは水が接着剤の成分と相互作用した結果、接着力が低下、ないし失われるためで、通常の接着剤の避けられない弱点である。したがって、水中で使用可能な接着剤を作るには、全く新しい発想が必要である。韓国の浦項(ポハン)工科大学校のキム・キムウン教授らのグループは、面ファスナーの原理を応用した水中接着剤「超分子ベルクロ(“ベルクロ”はベルクロインダストリーズの商標)」を開発した。面ファスナーではΩ型のループにJ型のフックが多くの場所で引っかかることによって強い貼り合わせを実現している。同グループはナノスケール(10億分の1メートルのスケール)でのこの原理の応用を目指した。例えば、一方のシリコン薄板にククルビットウリル(cucurbituril)と呼ばれる環状超分子を層状に結合させる。この分子は自分がもっている穴にさまざまなゲスト分子を捕捉できる能力をもつホスト分子である。そして、もう一方のシリコン薄板に、ゲストになる分子を層状に結合させておけば、水の外でも中でも、二つの薄板はしっかり貼り合わされる。しかも、二つの薄板は力をかけたり、酸で処理することによって容易にはがすことができる。水中での接着の巧妙な方法が提案されたと評価できる。