化学系の構造、性質、反応などを物理学の法則や手法を用いて研究する化学の分野。研究対象や手法は多岐にわたっている。量子化学に基づく構造化学(structural chemistry)、反応化学(reaction chemistry)、熱化学(thermochemistry)、反応速度(rate of reaction)、化学平衡(chemical equilibrium)、電気化学(electrochemistry)など枚挙にいとまがない。M.V.ロモノソフは古く1752年に「物理化学」という用語を使っているが、現代的物理化学が誕生したのは1860~80年の間で、電解質溶液の化学、反応速度論、化学熱力学などの分野で前進があった。その結果、1887年には物理化学の専門雑誌『Zeitschrift fr physikalische Chemie』がJ.H.ファントホフ、F.W.オストワルト、S.A.アレニウスによって創刊され、次第に化学の重要な分野に発展した。ちなみに、この3人は前後してノーベル化学賞を受賞している。20世紀に入ると、理論面では量子化学(quantum chemistry)、実験面では紫外・赤外スペクトルやNMRなどによる分光学(spectroscopy)が物理化学の発展を加速させた。さらに20世紀後半には、宇宙化学(cosmochemistry)などの新分野も誕生した。それにもまして、物理化学と生命科学との結びつきがますます重要になっている。