無数の細孔をもち、それによる特性を利用する材料。炭(charcoal)は最も古くから知られている細孔物質であり、エジプトや中国で紀元前から防腐剤としても使用されていた。木炭(wood charcoal)の吸着の研究は1773年にC.W.シェーレによって始められ、活性炭の工業生産は1890年に始まった。活性炭(active carbon)の構造は、黒鉛状の多環芳香族分子の乱れた層構造と非晶質状の脂肪族鎖状構造から出来ていて、多様な細孔をもっている。細孔は細孔の径「r」によって(1)サブミクロ孔(r<0.8nm)、(2)ミクロ孔(0.8nm<r<2nm)、(3)メソ孔(2nm<r<50nm)、(4)マクロ孔(r>50nm)の四つに分類される(nmはナノメートル:10-9m)。活性炭にはいろいろな細孔が混在している。その表面は疎水性であり、非極性分子(全体として電気的な偏りをもたない分子)の吸着に適している。空気の浄化、溶剤の回収、排煙から硫黄酸化物や窒素酸化物を除去する脱硫・脱硝などに用いられてきた。
天然のゼオライト(沸石 zeolite)の吸着作用は鮫島實三郎、J.W.マックベインらにより発見された。ゼオライトはアルミノケイ酸塩で、基本骨格はSiO4四面体とAlO4四面体が頂点のO原子を共有して4、6、8、12員環構造である(Siはシリコン、Oは酸素、Alはアルミニウム原子)。多くのゼオライトは非常に均一なサブミクロ孔をもっているので、大きさの違う分子を混合物から分別する分子ふるい(molecular sieve)に適している。R.M.バレルらが合成に成功してから、数多くの分子ふるいゼオライトが作られた。ゼオライトは結晶内にナトリウムのイオン(Na+)などの陽イオンがあり、電荷のかたよりをもつ極性分子を選択的に吸着する。特に水の選択吸着は強く、冷媒の乾燥などに適している。また、イオン交換剤として、排水中のアンモニア型の窒素の除去や放射性排水からセシウム137(137Cs)を分離回収することにも利用できる。
最近では、界面活性剤のミセル(micelle)を鋳型として、メソ孔をもつポーラスシリカ(porous silica)が作られた。メソ孔の内面にはシラノール基(Si-OH)が多くあるが、これを例えばチオール基(-SH)に置き換えると、水銀や銀イオンを選択的に吸収する。
新しい細孔物質として、現・神奈川大学名誉教授の森和亮はテレフタル酸銅(II)が窒素ガスなどの気体を大量に吸蔵することを1970年代の始め、日本化学会年会で報告した。この銅塩は酢酸銅(II)型の二核構造が、ベンゼン環で架橋されて二次元格子となり、それが積層してできた一次元のサブミクロ孔をもっている。この細孔にはメタンガスの貯蔵、触媒など多才な機能がある。この分野は京都大学の北川進教授やアメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校のO.M.ヤギー教授らにより配位高分子(PCP ; porous coordination polymer)、金属有機構造体(MOF ; metal-organic framework)などとして大きく発展している。