かつては野呂邦暢の『草のつるぎ』や、海辺鷹彦の『黄色い斥候兵』のように、自衛隊員の苦労や苦悩を描いたリアリズム小説があったが、現今の福井晴敏の『亡国のイージス』や有川浩の自衛官ものの小説には、冒険小説のヒーロー的主人公としての自衛隊員が登場するだけになっている。また、‘ちょっと変わった職業'としての自衛官が、ユーモア小説のキャラクターとして使われていることもある。一方で、元女性自衛官の岬美由紀が活躍する、松岡圭祐の『千里眼』シリーズなど、異色の作品も輩出している。タイムスリップした自衛隊員が戦国武将たちと戦う、半村良の『戦国自衛隊』以降、タイムスリップものや架空戦記ものに自衛隊がよく登場するようになった。防衛省への昇格や海外派兵の容認など、キナ臭い社会状況を反映しているといえるかもしれない。