1920年代の円本ブームや、60~70年代には「世界文学全集」のブームというものがあった。世界の古今東西の古典的な文学作品を集めた「全集」で、中央公論社版の『世界の文学』(63~67 全52巻+別冊2巻)や、集英社の『世界文学全集 20世紀の文学』65~68 38巻)、筑摩書房『世界文学大系』(58~82 96巻+別巻2巻)などが出された。以来、30年近くにわたって同種の企画はなく、もはや「全集」もの自体が滅びたかと思われていた。
河出書房新社が、池澤夏樹個人編集で『世界文学全集』を出すというのは、こうした時代状況に逆らった、画期的企画といってよかった。ポストコロニアリズム(post-colonialism →ポスコロ批評)の時代を象徴して、アジア・アフリカ・ラテンアメリカの文学作品にも目配りしたこの全集は、今後の日本における「世界文学」の展開・受容を占うという意味でも、注目せざるをえない。
ただ、日本文学と「世界文学」を区別し、分離的に取り扱うという従来の全集の区分についての異議もあり、普遍的な「世界文学」というものがありうるかという論議も、深められなければならないだろう。ちなみに2007年11月の第1回配本は、ジャック・ケルアックの『オン・ザ・ロード』(旧訳では『路上』として紹介された)、以降、マリオ・バルガス=リョサの『楽園の道』、ミラン・クンデラの『存在の耐えられない軽さ』と続刊され、09年1月からは第2集の刊行も始まった。また、好評のため、第3集の続刊も決定している。