日本では明治30年代(西暦1900年前後)に「近代文学」が生まれたとされている。柄谷行人の『日本近代文学の起源』では、「内面」「風景」「児童」「病」といった近代文学の要素が、この時期に発見され、構成されたことを主張している。二葉亭四迷(1864~1909年)の小説、北村透谷(1868~94年)の批評、島崎藤村(1872~1943年)の詩が「近代文学」の誕生を告げるものだった。それは、明治・大正・昭和の時代を過ぎ、1970年代まで続いたと考えられる。
なお、近代文学と現代文学との境界ははっきりとはせず、昭和時代から、あるいは戦後からを「現代」とする場合があるが、文学史的には「近代文学」として、それ以降を「ポスト近代文学」とするほうが、理論的には整合性が保たれると思われる。つまり、「ポスト近代文学」は、三島由紀夫(1925~70年)や中上健次(46~92年)の死、村上龍・村上春樹の登場(76~79年)によって画期とされることが多いが、昭和と平成の間(89年)、20世紀と21世紀の間に境界線を引くのが、便宜的ではあるがもっともわかりやすい指標であるだろう。