大江健三郎、開高健などとほぼ同世代だが、社会人としての職場経験を経てから作家としてのデビューを果たした、いわゆる「内向の世代」の作家の一群がいる。古井由吉、後藤明生、高井有一、坂上弘、黒井千次たちである。彼らの作品における個人の実感や生活を大事にするその‘内向性’について、小田切秀雄が批判的な意味合いで呼んだのがこの呼称のきっかけだった。批評家として彼らに伴走する立場にいた川村二郎は、小田切の批判を逆転させ、彼らの作品の「内部の豊饒」を語った。一時、「文体」という文芸雑誌が彼らの活動の場所となった。