派遣労働者の‘派遣切り’といった経済不況の風をまっこうから受け、労働環境がきわめて悪化したことから、過酷な労働環境と労働者の団結を描いたプロレタリア文学の古典である小林多喜二の『蟹工船』がにわかにブームとなった。生活も職も心も不安定な立場に置かれた人々を意味するプレカリアートの運動を提唱していた作家の雨宮処凛が高橋源一郎との対談で、現在の若年労働者の環境の過酷さが、『蟹工船』の時代と社会状況が似ていると発言したことがきっかけで、ある書店が新潮文庫の『蟹工船/党生活者』を平積みにして展示したところ、若い読者を中心に驚くべき売れ行きを示したという。岩波文庫なども追随して『蟹工船』の文庫版の重版を行い、新聞・テレビ等で報道されたことから、ブームとして火が付き、社会的な現象にまでなった。同じくプロレタリア文学の古典である徳永直の『太陽のない町』、葉山嘉樹の『海に生くる人々』なども、2匹目、3匹目のドジョウとして復刊された。また漸減傾向を示していた日本共産党への入党希望者や、機関紙「赤旗」の購読者が増えたというのも、この『蟹工船』ブームの余波であるらしいと話題となった。