悪漢小説ともいわれる。もともと、スペインの浮浪する悪漢やならず者たちのことを描いた小説「ノベラ・ピカレスカ(Novela picaresca)」を意味し、作者不詳の「ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯」がそのはしりであり、代表的な作品とされる。ただし、「悪漢(picaro)」といっても世に言う犯罪者や盗賊たちのことだけを指すのではなく、下層社会で自分の才覚と知恵で生き抜くしたたかな生活者といった趣を持ち、愛すべき「悪漢」たちが活躍するのである。一方、暴力性や犯罪性を前面に押し出し、人生の暗黒面を強調して描く作風のものは「ノワール(Noir フランス語で「黒」の意)」と呼ぶ。1940年代ごろにアメリカで作られた一部の犯罪映画をフランス人批評家が「フィルム・ノワール(Film Noir)」と呼んだのが始まりとされ、それらの映画及び原作小説に影響を受けたフランス人作家たちが書いた小説を「ロマン・ノワール(Roman noir 暗黒小説)」と呼ぶようになった。映画の世界ではフランス・ノワール(フレンチ・ノワール)や香港ノワールといった言い方をする。日本ではあまり担い手がいなかったが、1996年に馳星周が「不夜城」でデビューし、一気に旗手の座に躍り出た。