書簡(手紙)の体裁を取ったフィクション。西欧ではサミュエル・リチャードソンの「パミラ」(1740年)やゲーテの「若きウェルテルの悩み」(1774年)などがあり、啓蒙思想家などを中心に、特に18世紀のフランスで流行した。架空の受信者にあてた一連の独白的書信という形を取ることが多いが、受信者との往復書簡や、コデルロス・ド・ラクロの「危険な関係」(1782年)のように、多数の人間の間を手紙が行き交うもの、読み手が自分にあてられた手紙のように小説を読むという効果を狙ったものもある。日本では、これらに影響を受けて、近代以降に多くの作品が書かれた。谷崎潤一郎の「富美子の足」(1919年)や太宰治の「トカトントン」(47年)などは、作者自身が受信者という設定になっている。また、書簡体という形式を巧みに構成に生かし、時間経過や時系列の錯綜を効果的に使った夢野久作の「瓶詰の地獄」(28年)という名短編もある。