互いに見ず知らずであった人間同士がインターネットを通じ、またインターネットで知り得た方法で死を共にする現象のこと。2003年より報告され始めたが、07年に至っても終息の兆しはみえない。インターネット上で自殺志願者を募る場合が多いが、そのほか、他者や自分自身の殺害を依頼する嘱託殺人事件、自殺志願者になりすまして、他のメンバーを殺害する自殺サイト殺人まで起こった。心中の原義は「人に対して義理をたてること」であるが、「相愛の男女が合意の上で一緒に死ぬこと」の情死や、「複数の者が一緒に死ぬこと。合意なしに相手を道連れにして死ぬ場合にもいう」を指すようになった。しかし、お互いが見知らぬ者同士で、年代や性別もさまざま、かつおのおのが自殺願望を持つこのケースは、従前ならまれにしかみられないことであって、その意味でネット心中は新しいタイプの現象といえる。インターネットの社会心理的特性は、匿名性(anonymity)、バリアフリー性、同時性、連続性にあるが、ネット心中ではこの特性が巧みに利用されていて、独りでは死ねない、仲間がいれば死ぬ勇気が出る、少し不安が緩和される、周りに知られずに楽に死ねる方法を知りたいという自殺願望者を死に追いやるモメンタム(弾み)となっている。07年も3万人を超える自殺者があり、現実の社会での連帯感の育成強化、カウンセリング体制の整備などの対策が望まれる。