過去の体験を保持し、後に再生する機能のこと。1980年代後半より、記憶の仕組みは細胞レベルでも研究されるようになった。記憶には忘却という特性があり、記憶した情報が長期間変容せずに、単独で残っているとは限らない。経験したことの内容が誤って想起されたり、現実の体験と想像が混同して、実際に体験されたように想起されることを記憶錯誤( paramnesia )という。通常の記憶は、(1)記銘、(2)保持、(3)検索の3段階を経るとされるが、記憶錯誤は記銘時の記憶者の偏見や期待、保持期間中の事後情報の入力、検索時の誘導的質問、検索の繰り返しなどによって起こる。例えば、しばしば法廷で証拠として取り上げられることもある目撃証言であるが、その証言に常に信憑性があるかどうかは疑わしいことがわかっている。質問の仕方によっても、目撃証言が変わることが示されている。また、幼児期の虐待の記憶などでも、心理療法の中でカウンセラーの誘導的な質問から、事実とは異なる偽記憶( pseudomnesia )が作り上げられ、そのため親が有罪判決になったり、また無罪放免になったりすることもある。このように記憶とは、思い出すたびに変容し歪曲する可能性、あるいは他の記憶が混同して引き出される可能性を秘めている。そのほか初めての風景や事物を過去に見た経験があると思い込む既視感( dj vu )や、なじみのものを初めて見たかのように感じる未視感( jamais vu )も記憶錯誤を伴う現象である。