ことばは社会を映す鏡であるから、社会が変化すればことばも変化する。人々は規範の変化を揺れとか、乱れと感じがちである。これはまず誤用から始まる。日本語の複雑な敬語体系はこの波をもろにかぶる。「この電車は回送電車で、ご乗車できません」に違和感をもつ人は少ない。しかし、「ご(お)~する」は「ご報告(お知らせ)できません」のように、下のものが上のものにへりくだって言う謙譲表現のはず。相手の行為を高め、相手をうやまう尊敬表現なら「ご(お)~になる」として、「ご乗車になれません」が本来の語法である。この混同はかなり広まっている。また、「荷物をお持ちしますか」と、客が持つかどうかを聞く店員がいる。若者がこれらの発信源で、ことばの世代差は拡大している。その原因は言語教育制度のゆるみと同時に、社会感覚の変化であろう。履歴書(身上書)に父親の職業として、会社員と書くべきところ、「リーマン」(サラリーマンの略)と書く人もいる。