母語を異にするものどうしが意思伝達に使うことば。共通語(common language)ともいわれるが、画一、一様のことばではない。日本人と中国人が英語をリンガフランカとして使用するときのように、たいがいは、第3の言語を指す。事実、英語はリンガフランカとして、広範囲に使われている。ただし、日本人も中国人も、まったく同じ英語を話しているのではない。もちろん、彼らの話す英語はアメリカ英語やイギリス英語ではない。それぞれ独特の言語的文化的特徴をもった英語を話す。それでも、非母語話者が話す英語には、世界中で共通点も多い。母語話者の多くが使う「three」の[th](舌先を歯と歯の間に挟み、摩擦してだす音)は、ほとんどの非母語話者は使わない。彼らは、[t][s][f]などで代用する。また、母語話者が「discuss the matter」というところを、非母語話者は「discuss about the matter」という。「Don't you speak French?」に、「Yes, I don't.」と答えるのもふつうである。人間の営みの諸分野で、英語が世界の国際的リンガフランカとして普及すると、ネイティブも自分の規範に固執できなくなる。話し手のあいだの相互理解の態度が重要になってくる。最近では、英語研究者のあいだでも、「English as a Lingua Franca」という専門分野が生まれ、これらの問題に取り組んでいる。オーストリアのウィーン大学では「VOICE」と呼ばれる、非母語話者どうしが使う英語のコーパス(テキストや発話を記録し、集積したもの)が構築され、専門家の研究に提供されている。なお、特定の地域では、インドネシア語やスワヒリ語などが、この広域コミュニケーションの役割をはたしている。