現在、世界にはおよそ6500種の言語が存在しているといわれる。ただし、そのなかで非常に多くの言語が絶滅の危機にある。特に、少数言語で、しかも文字をもたない言語にその傾向が強い。キリスト教団の宣教師はかなり以前から、聖書の普及のために、多くの無文字言語を学習し、それにアルファベットをあてはめ、表記体系を作り上げている。たとえば、インド北東部のカシ語やミゾ語。キリスト教の宣教はかならずしも成功しなかったが、人々はローマ字表記を受け入れ、伝統文化を記録する手段としている。借用文字はなにもアルファベットに限らない。最近では、インドネシア東部のブトン島で話される少数言語チアチア語の表記に、韓国語のハングル文字が採用された。小学校では、ハングルによるチアチア語の授業もある。ハングルはインドネシア文化にはなじまないという批判もあるが、インドネシア語がローマ字を使っていることには反対論は聞かれない。文字に社会的な意味合いがあることがわかる。手話にも文字が工夫されている。運動分析家のバレリー・サットン(Valerie Sutton)が1974年に開発したサットン手話文字(Sutton Sign Writing)と呼ばれるもので、顔の表情、手の形、手の動きなどを表示する象形文字の体系である。手話の流れが手に取るようにわかる。ヨーロッパの諸手話に使われており、詩やエッセーを書くところまできている。