能本来の上演は、種類の異なる五つの演目を順に並べる。その合間に演じられる滑稽な内容のせりふ劇が狂言である。能が荘重、神聖、悲劇、苦悩、狂乱、夢幻、祝言といった要素を描く歌舞劇であるのに対し、狂言は日常生活における人間の生態をリアルかつユーモラスに表現し、話し言葉を用いるので現代人にも親しみやすい。それでいて、深い洞察と風刺に満ちている。それゆえ能に付随したものという見方は次第に薄れ、独立して上演されることも多くなった。日本語の発声や身体表現の基礎としてこれを学ぶ演劇人も増えている。また、自由な発想からほかのジャンルに挑戦して成果を上げる狂言師も多く、近年では伎楽・田楽・阿国歌舞伎の復活に取り組み、仮面の研究や国際交流に尽くしながら2004年6月に44歳で急逝した8世野村万蔵、世田谷パブリックシアターの芸術監督を務め、現代演劇でも目覚ましい活躍を示す野村萬斎、幅広い活動で人気の高い大蔵流茂山家の若手狂言師ユニットTOPPA!などが挙げられる。なお、歌舞伎・文楽では作品・演目の意味で狂言という言葉を使う。従って「通し狂言」とは一つの演目を通して上演すること。