哲学者アリストテレス(前384~前322)の著作の一つで、西欧における芸術論の基本文献。特に詩と演劇について詳しく論じている。人間の芸術的行為の根本はミメーシス(模倣・再現)にあるとし、叙事詩の本質は語り、劇の本質は行動であると定義づける。当時の演劇、特にソポクレスの作品をもとに考察を進め、優れた人物が破滅する過程を再現する劇をトラゴイディア(tragedy 悲劇の語源)、劣った人物の滑稽な有様を描く劇をコモイディア(comedy 喜劇の語源)として区別し、悲劇は見る者の恐ろしさ・痛ましさの感情を極度に高めることによって、かえってカタルシス(精神的浄化)をもたらすと説く。こうしたジャンル分けや、悲劇は一つの筋のみを描き場所も変わらず劇の内容はおよそ一日で完結するなどという記述は、当時の演劇の実態に即したものであるが、ルネサンス以降これが絶対視され、三単一の法則(劇における時・所・筋の厳密な単一性)が生まれた。