薔薇戦争の混乱とその後の宗教的対立の時代を経て、イギリスが政治的安定を得、経済の発展と海外進出を果たした時期に、演劇も盛んになった。エリザベス1世とその後継者のジェームズ1世はともに演劇を保護したので、この時期のイギリス演劇をエリザベス朝演劇と呼ぶ。その代表がシェイクスピア(1564~1616)である。「夏の夜の夢」「十二夜」などの喜劇、「ハムレット」「オセロー」「リア王」「マクベス」の四大悲劇、「リチャード三世」など薔薇戦争を題材にした史劇、独自の世界観と魂の救済・再生をうたったロマンス劇といった多彩な作品群を残した。同時代のスペイン演劇や日本の歌舞伎と並んで、バロック的演劇の典型とも見られる。欲望、憎悪、犯罪、復讐、権力闘争、裏切りといった暗部も含めた人間世界のあらゆる事象が鋭く描かれるばかりか、魔女や亡霊まで登場し、観客の想像力をかき立て、ダイナミックな展開を見せる。今日も世界中で様々に解釈され、上演されるゆえんであろう。シェイクスピア映画も立派なジャンルをなし、依然として活発な制作や研究がなされているほどである。1600年前後というのは、イタリア、イギリスで新たな劇場建築が生まれ、演劇の商業化が見られる一方、オペラが誕生するなど、今日に直接つながる西洋演劇の原点と位置づけられる。